今日の禁断 |
メダカの学校 |
石井真木さんに続いて、上浪渡さんも亡くなってしまいましたね。そのどちらの名前も、今まで生きていた中では全くなじみがなかったという方は多いことでしょう。かつて、やはりこれも亡くなった山本直純の後釜として例の「オーケストラがやってきた」のホストをやっていた石井真木は、それでもある程度の知名度はあったかも知れません(本職の作曲家として認識されていたかどうかは分かりませんが)。しかし、上浪渡となると、「それだれ?」と思う人が殆どなのではないでしょうか。実際、私でさえ今日の新聞に死亡記事が出たのを見て、それほどの扱いを受ける人かなと思ったぐらいですから。
上浪さんというのは、NHKの音楽ディレクター。かつてFMで、確か日曜日の夜中だったと思いますが、「現代の音楽」という番組があって、それの構成とMCをやっていました。この番組がいつから始まったものかは知りませんが、私が聞き始めたときには上浪さんが担当、私がそういう番組に興味を持って、毎週欠かさず聴いていた時期が終わるまでは、ずっと彼がやっていました。バッハ/ウェーベルンの「リチェルカーレ」がテーマ曲、2声部目が始まるあたりから「現代の音楽、上浪渡です」という、はっきり言って不気味なナレーションが入るのが、番組の始まりです。内容は、何かを特集してレコードをかけたり、コンサートのライブ録音を編集して放送したり、かなりヴァラエティに富んでいたものです。特に、コンサートはかなりマニアックなものを丹念に紹介していたようです。上浪さんというのは、局内ではかなり力のあった人のようで、彼のかなり偏った趣味が、一本貫かれていました。それは、私の趣味とも一致していたのですが、当時としてはあまり主流ではない音楽です。「現代音楽」というカテゴリー自体がそもそも非主流な訳なのですが、それでも「主流」は厳然と存在していたのです。それは、結局ヨーロッパのクラシック音楽の流れを連綿と受け継いでいるいわゆる「新ウィーン学派」、そしてそこから「発展」したとされたセリー音楽などです。上浪さんの趣味は明白でした。そのようなアカデミズムの権化には潔く背を向け、もっと「活きのいい」作曲家の紹介に最大の重点を置いたのです。ですから、私のような、そのあたりのものが大好きな人にとっては、この番組はなくてはならないものとなります。ケージ、クセナキス、ライヒ、日本人では高橋悠治、柴田南雄あたりは、常連だったでしょうか。ですから、コンサバティブな人たち、つまり、指導的な立場にある作曲家あたりは、この番組に対する嫌悪感をむき出しにしていたものです。○田○直先生などは、音楽雑誌に「公共の電波で偏向した番組を流すのは許せない」みたいなことを書いていましたし。
今ではとんとFMを聴く習慣はなくなってしまい、この番組がその後どうなったのかは知るよしもありません。しかし、私がもっとも吸収力が旺盛だったときに、この番組に出会っていたのはとても幸福なことだったのでしょう。曲がりなりにも、現代音楽に対する価値観を持つことが出来るようになったのは、まさに上浪さんのおかげだったのです。もっとも、当時は今こんなことをやっているなんて、考えもしませんでしたがね。 |
aventure number : 0142 |
date : 2003/4/10 |
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