弾くこと、そして奏でること

第三回

コントラバス S.S.

03/05/15掲載)

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 知らない街に旅に出て、そして知らない街を歩く。だれもが経験してみたいロマンではないだろうか。日常の生活に疲れ、自分の住居のあるところに飽きて(たとえ基本的にそのところが好きだったとしても)、何かこう自分をとり巻く全ての環境と違った次元の場所へワープしてみたい。そんな感情は、多くの人が抱いているように思う。
 実際旅に出た経験のない人は少ない筈だ。その行く先は人それぞれ区々だろう。それぞれの人たちは、それぞれのお気に入りの場所を持っていて、案外しょっちゅう行ったり来たりしているかも知れない。また、人によっては全く行った事のない所にしか行きたくならないかも知れない。まあそれは趣向の問題であるにしても、旅というのはその人たちに何か特別な感慨を抱かせる筈だ。
 僕は自慢する訳ではないのだが、日本の全都道府県に行った経験を持っている。以前所属していたバンドが演奏旅行を行ったのだ。県庁所在地でのコンサートが主ではあったが、そうでない県もあったように思う。それは行った先々で色んな思い出もあるが、今考えてみるとよくそれだけの体力があったものだと我ながら感心する。新幹線や飛行機の整備されている事もあって、移動するのがあっという間という場合もあったが、それでも隣の県へ移動するのに、まるで隣の家へ行く位の感覚で行けちゃうのには自分でも驚いてしまう。交通機関の整備、ハイスピード化というのには本当にびっくりだった。
 大きな都市も、行く度に色んな顔を持っているのだろう。再三訪れた札幌、名古屋、大阪、福岡なども行く度に印象が違っていた。やっぱり最初は本当に知らない街に来たという感じで、道行く人たちもどこかよそよそしい。しかし、二度目となると少し変わってくるから驚きだ。景色や建物なども、一度は見たものが多い。そうすると、何かこう歩きやすさのようなものを感じ始めている自分に気が付く。道行く人たちも何か微笑みかけてくれているような気さえしてくる。三度も行った所の三度目ともなると、もう故郷へ帰り着いたような・・・というのは嘘だが・・・懐かしい感じと、自分がこの街の一員として迎えられているような気持ちにさえなる。なぜだか分からないが、嬉しい気持ちは確かに感じていた。
 不思議なものだと思う。日本の国内という事情も勿論関係してはいるのだと思うが、それでもやっぱり知らない土地で、そこの人たちから温かく迎えられるというのは、本当に有難い事だと思う。そして色んな人々と出会い、交流し、話が出来るというのは、本当に幸せな事だ。今にして思うと、本当に貴重な体験をさせてもらったと思う。
 まあ、もうあまり演奏旅行というのは経験する機会もないだろうから、この街から出る事は殆どない事だとは思うが、それでも旅への憧れというのは、やはり心のどこかにいつも抱いているように思う。国内なら、二日もあれば色々な所へ行く事ができる。いつもと違った空気を吸って、自分を再発見する。そんな洒落た感情を、味わってみたい。

ファンクラブ会報の表紙



1992年の「World Tour in Japan」の
パンフレットより(タイトル下も)