今日の禁断 |
トイレ |
劇団四季の「ウェストサイド物語」を見てきました。だいぶ前に東京での公演を見たことがあったのですが、それが全国ツアーに出ていて、今日は仙台での最終日です。会場は、いつも彼らが使っている県民会館です。
東京では生オケがピットに入っていましたが、地方公演でしたから当然カラオケです。ただ、PAのスピーカーがやけにちゃちなのが気になります。「携帯電話の電源はお切り下さい」みたいなアナウンスも、なんだかいつもより不明瞭に聞こえますし。
こういう公共のホールですから、開演前にはホール備え付けの緞帳が下りています。金の糸などが入った豪華なもの、真ん中には蔵王のお釜、下の方には松島と、「宮城県」の観光地があしらわれているという、ご当地ならではのデザインとなっています。まあ、ミュージカルが始まればこれは見えなくなってしまうのですから、別にどうでもいいのですが。
ところが、場内が真っ暗になって序曲が始まると、この緞帳は下りたままで、そこにカラフルで強烈なライトが当たったではありませんか。この幕開けの照明は東京と同じプラン、映画の印象的なオープニングに呼応したものです。「マンボ」のテーマが始まると真っ赤になったりと、非常にインパクトの強い、まさにこの作品の濃密な内容を予言するようなものなのですが、その強烈な光の中に「蔵王」やら「松島」が浮き上がっているというのは、なんともシュールな光景でした。下の端には「七十七銀行」ですからね。お客さんは、ひとときの間、日常を忘れて殺伐としたニューヨークの下町に身を置きたいと思っているのでしょうが、これでは今住んでいる土地そのまんま、笑うほかはありません。
しかし、一度幕(つまり緞帳)が開いてさえしまえば、そこには、さっきの東京での公演をはるかに上回るレベルのステージが広がっていたのですから、嬉しくなってしまいます。東京での主役級の人たちの歌のあまりのひどさには、劇団四季そのものへの信頼さえもなくなってしまうほどの憤りをおぼえたものですが、今回は全然違います。まず、トニー役の福井晶一さんが、東京でのキャストとは雲泥の差、きっちり「音楽」を聴かせてくれていましたよ。もともとバリトンなのでしょうから、テノールのトニーを歌うのはちょっと苦しいところもあるのでしょうが、そこはうまく処理をしていましたし。そして、マリア役の高木美果さんは、伸びのある本格的なベル・カント、しかし、オペラ歌手のような過剰なビブラートはありませんから、まさに余裕でミュージカル・ナンバーをこなせる、という人でした。もっとも、この人はお芝居は歌と、そしてダンスほどは得意ではないようで、ちょっとセリフなどにはまだまだと言うところはありますが、おそらく修練次第でもっと上手になる可能性は秘めている、と見ました。
そんな、音楽的に極めて充実した舞台で、このオリジナル版を見直してみると、例えば映画版では「第一幕」に移ってしまった「Gee,
Officer Krupke」が、本来の「第二幕」で歌われるときのテーマの重さを噛みしめることが出来るようになります。映画で見ると、このナンバーは、一警察官への単なるおちゃらけのような「明るい」歌に聞こえてしまいますが、「事件」が起こったあとに歌われるこの曲は、なんという「暗さ」を秘めていることでしょう。
さらに、映画ではカットされている「Dance
Sequence」も、あの映画が持っているリアリズムの世界には馴染まないものだったことも、とてもよく理解できます。
初めて気が付いたのですが、ジェット団とシャーク団のスニーカーの色が違っているのですね。「アメ公」のジェッツは全員白、プエルトリカンのシャークスは全員黒なんですよ。映画版を確かめてみたら、これも全く同じ、半世紀近く経って、初めて知ったことでした。
見ている間中、私の涙腺は緩みっぱなし、そんな、ストレートに人の心を打つために欠かせない完成度を、この公演はしっかり備えていた、ということです。心配だったPAも、逆にうるさすぎないで、とても気持ちのよいものでした。 |
aventure number : 1371 |
date : 2009/7/20 |
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