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TSUWANO

 今回「Chor青葉」が初演した「組曲津和野」を作詞した安野光雅さんのことはもう30年以上も「追っかけ」てきたものですから、そのあたりの体験には、他の人より年季が入っています。そこで、安野さんの「絵本」とこの曲の関連などについて、ちょっと書いてみようと思い立ちました。これは「Chor青葉」のメンバー専用の掲示板に書き込んだものが元になっています。。
 安野さんはもちろん「画家」という「芸術家」しての才能が一番知られているのでしょうが、その才能は「科学者」としても秀でたものがあります。そして、なによりもその独特のユーモア、というか、「悪戯心」が素敵。それらのものが一体となって、安野さんの世界を作っているのではないでしょうか。
 これは2001年に平凡社から刊行された、安野さんのアンソロジーの表紙です。というより、この年号でお分かりのように、この年に津和野にオープンした安野光雅美術館、そう、私たちがおじゃまして「組曲津和野」を歌ってきたところにちなんで発行されたものです。この表紙は、実は美術館オープン案内のポスターの原画なのです。下半分はまさに「組曲津和野」に歌われている風景ですね。赤い色の瓦は「石州瓦」というこの地方独特のものだったというのは、実際に行ってみて初めて分かりました。「巡礼」の中にある小学校の写真でも、校舎の屋根がこの瓦で葺かれているのが分かります。鯉も泳いでいましたし。
 真ん中の山陰に見えるのが天文台でしょうか。美術館にはプラネタリウムもありました。そして、そこから上に見えるのが「TSUWANOの星座」です。分かりますか?左端、鉄砲を持った男の子は「T」、その隣のおじいさんは「S」、全部合わせると「TSUWANO」となる星座なのです。このあたりが、「科学者」と「悪戯心」の融合ですね。これは、美術館のプラネタリウムで実際に見ることが出来ました。ちなみに「U」の文字は、津和野の伝統芸能「鷺舞」だということも、行ってみて初めて分かったことです。
 これを見て、私には「これだ!」ひらめくものがありました。「津和野組曲」の中に「つわのいろは」という曲があります。これは、そのタイトルの通り「命短し/老化は早し/花のさかりは/20まで」といった具合に、「いろは」48文字を全てのフレーズの頭に盛り込んだという手の込んだ作品です。その中の、「れんげの畑/空にはひばり/つらい子守の/合歓の歌」という部分に「つ」を重ねてなぜかローマ字で「TSUWANO」という歌詞が出てくるのが気になっていたのですよ。ですからこれは、その星座の絵に引っかけて、安野さん(もしかしたら作曲家の森ミドリさん)が仕掛けたちょっとした悪戯だったのですね。
 もう1ヵ所、同じ曲の別の箇所には「ANNO」という歌詞が、やはりローマ字で現れます。これは安野さんの常套手段。「ANNO」というのはラテン語やイタリア語で「年」という意味ですが、ヨーロッパの古い建物などには良くこれが使われているそうなのです。「ANNO1492」とあれば、それは1492年に建てられたものだとか。それを、安野さんはやはり「悪戯心」で、作品の中に頻繁に使っています。下の画像はその1例、「旅の絵本II」の中にあるものです。これはヴェニスが舞台、「ANNO1978」のすぐ上にいるのが「ヴェニスの商人」のキャラだというのも、もちろん「悪戯心」のなせるわざです。


Anno's Journey

 「旅の絵本」と「瓦」がらみで、もう一ネタ。私が最高傑作だと思っている「旅の絵本」ですが、今手に入るものは教会の屋根葺きのページが上の画像のようになっています。ところが、最初に出版された時には、下の画像のような屋根でした。
 どこが違っているかというと、瓦が葺かれている位置です。初版では上から葺いていますが、これだと雨が漏ってしまいます。それを読者から指摘されて、その部分を書き直したものが、今では使われているのです。
 しかし、この「書き直し」は、およそ安野さんらしからぬ雑な仕上げになっていますよね。オリジナルを見なくても、書き直した跡ははっきり分かってしまいます。おそらくこれは安野さんご本人の手による修正ではないのではないか、そんな気がしてならないのですが。
 それともう一つ、この修正版は色合いがまったく違っています。確かに印刷の時のムラということはあり得ますが、他のページではそれが全く違和感のないほどの違いなのに、このページだけが全く別の色になってしまっています。これも、おそらく原稿を差し替えた時の製版のコンディションなどで、違ってしまったのでしょうね。ですから、渋い色合いの初版本は、たとえ瓦の葺き方が間違っていても、私にとってはかけがえのない宝物です。