「仙台ニューフィルハーモニー」ロゴデザインのコンセプト


我々が取り組む音楽は、決して直線によって作られるものではなく、また同時に、シンメトリーな完全図形で表現されるものでもない。というのがまず出発点である。

特にオーケストラ音楽というものは、自然から抽出された媒体=楽器を通して、決して直線的でも完全でもない感性あるいは感情を表現するものであるから、そこから導かれるデザインもそれに従うのは当然であろう。

今回のCI(corporate identity)の記号は、弦楽器の「糸巻き」の部分を構成素としているが、写実的な表現を避け、あえてすぐにそれとは判らないようなデザインを試みた。その抽象の中に、我々が演奏において、音楽を通して見つめている「音楽ではない何か」と同じものを、そこにも表現したかったのだ。

「糸巻き」をモチーフにした動機は、具体的に言うと次の2つである。1つめは、まず、そのものの「美しさ」。女性の曲線にも似たその美しさは、偶然のものでもあり必然のものでもある。今回、はじめに自力で画面上にそのベジエを再現しようとしたのだが、満足できるものは生まれなかった。結局、写真からトレースすることになった。糸巻きの曲線は、まさに「自然」と「造形」の奥の深さ、扱いの難しさを私に感じさせる。

2つめは、糸巻きの上部の「輪」である。実際は「渦巻き」で1本の曲線で表現されるべきであるが、あえて複数の「輪」にした理由は、一つ一つの輪が、一人ひとりの「音」であり、それを包むことによって「ハーモニー」が生まれる、ということを表現したかったからであった。そして同時に、「輪」で表現することは、対象の抽象化の役割も担っている。

本質的なものはシンプルであるとは、度々申し上げてきたが、今回のロゴにおいても、それに倣った。

数年の時を経て、オーケストラが「個性」として成熟する時が来るのならば、その時こそ本当の意味でのアイデンティティマークをつくって頂きたい。

2000.10.10 Kazuki ENDO(e-design)