H.W.(Tp)

(99/5/18掲載)




 キリル・コンドラシン指揮、北ドイツ放送交響楽団のマーラー「巨人」を聴いた。CDの評など書いた事は無いが、東昌寺のタケノコのお礼に、私なりに感じた事を書き綴ってみたい。
 まず1番に感じたのは弱音のなんと美しい事よ! ドイツのオケなのでまずは重厚な金管を期待して聴いたが、弦の柔らかで暖かい響き、特にp・ppの品の良さがとても気に入った。次にテンポ運びの自然さ。このCDは末廣先生ご推薦との事だが、先生がどんなマーラーにしたかったかが良ーくわかる。(ような気がする)
 ライブ録音なので? キズは多少ある。絶えず上ずり気味のオーボエや音程の無い2番以下のトランペット、アインザッツの合わない木管など、粗を探せば限が無い。自分の楽器柄どうしても金管に耳が行ってしまうが、ホルンはやたらに巧い! そう言えば今月号のバンドジャーナル(皆さん、こんな雑誌知っていますか?)の特集も北ドイツ放送響の若いホルン奏者だった。このオケは伝統的にホルン奏者が上手なのか・・・・。トランペットはと言うと、バランスが悪い(1番しか聞こえない)上に、音色もあまりドイツっぽく無い。軽いというか薄いというか、私の持つドイツオケのイメージとは少々違っていた。しかし、上手い事は確かだ。3楽章のトランペット2本のハモリは絶品! 以下は詳細である。

 第1楽章  タテヨコの乱れは相当にある。なんでもテンシュテットが急病のため、コンドラシンは代振りだそうだが、リハーサル時間は十分とはいえないようだ。冒頭22小節目の舞台裏トランペットはぐちゃぐちゃである。ホルンやクラリネットの上手さに助けられて曲は進んでいくが、前プロは何だったのだろう? 練習番号4に入り弦が主導権を握ると、その端正なサウンドに思わず聞き入ってしまう。音程やアーティキュレーションは当然カンペキである。楽譜に書いてある事は全てやっているようだ。末廣先生が言いたかったのはこの事だったのか・・・・ 練習番号12のリピートはしていない。その為か、1楽章全体がすっきりした印象を受ける。練習番号25番からラストまでのテンポの運びは見事の一言に尽きる。聞き手のワクワク感を損う事無く、かといって1楽章で完結させない。それがどこまでも自然なテンポ設定の中で繰り広げられているのだ。
 第2楽章  末廣先生のリズムの取り方がウイーン風なのだとしたら、この演奏はウイーン風ではないようである。もしくはホールの残響が邪魔をして3拍目の裏の8分音符のスタッカートが流れてしまってるのかもしれない。とはいえ、一糸乱れぬアンサンブルは流石である。ここでもホルンの上手さが目立つ。それにつけても弦の音色の一体感・透明感はどうだろう。練習番号7からの弦楽器の絡みはスコアを見ていなければどの楽器か区別がつかないほど(私には)統一感がある。トリオはバランスの悪さが気になる。弦は十分に艶っぽいが、フルートが端正というか、控えめというか・・・・ オーボエの品の無さもやや耳につくか?  
第3楽章  いったい音源は何なのだろう。もしやLP? 冒頭は僅かにスクラッチ・ノイズが聞こえる。コントラバスのソロはEの音程が気になるが、哀愁の漂ういい味を出している。バス・クラやチューバ(きっとF管)のさり気なさもいい。練習番号3からのテンポUPも自然である。オーボエの上ずりピッチもこのパッセージなら雰囲気ピッタリだ。練習番号10前後のハープのバランスもとても良い。ところで、83小節目でドアが"バタンッ"と閉まる。普通閉めるか、こんな静かなところで・・・・ 中間部の牧歌は、まるで天国にでもいるようである。あっ、コンドラシンはこの演奏会の直後に天国へ逝ってしまったんでしたね。 合掌。
 第4楽章  全体を通しての打楽器の音色の多彩さが素晴らしい。まさに"パウケ"や"ベッケ"といった趣の音である。決め所での大太鼓やシンバルのなんと気持ちのいい事! しかし、これだけ演奏してきてなんでこんなにスタミナがあるの? 1楽章とサウンドが変わらない。むしろそれ以上・・・・ これ、ライブなんですよね!? クライマックスはもう筆舌に尽くせません! (私の知っている語彙はこれで使い果しました)
 録音は良くない。マイクはおそらく3本位のマルチだろうが、オケとのセッティング距離が遠すぎてホールトーンにミキシングが負けている。こういった残響の多いホールはむしろテラークのようにワンポイント1本の方がバランスがいい場合もあるのだが。(最近のニューフィルはすべてこの方式)ま、海賊版のCD(CIN CIN=乾杯って何処のレーベル? 4楽章が5分20秒って記載はないでしょう・・・・)に音質を求めても仕方がないか。惜しむべきは、これを演奏会前夜でなく、数か月前に聴きたかった事。救いだったのは、この演奏の強烈なイメージに捉われる事無く本番を終えられた事・・・・ 稚文にて失礼、お読みいただき感謝