(99/5/18掲載)


 9310月から943月まで毎週火曜日の深夜に、フジテレビで「MAESTRO」という番組が放映されていました。三谷幸喜が主宰する東京サンシャインボーイズの看板アクターだった西村雅彦が初めてテレビにレギュラー出演したもので、彼が「マエストロ」に扮し、毎回一人の作曲家を取り上げ、ドラマ仕立てで作品や生涯を紹介するというものです。ON AIR当時は、東京の音大生の間ではひそかなブームとなったものですが、(仙台レコードライブラリーの小松嬢も見ていたとか)あいにく仙台にはネットされてなく、編集子も見る機会がありませんでした。ところが、このたび、前回の定期演奏会にエキストラでいらっしゃったFlの渡辺有美さんが秘かに録画していたビデオによって、そのうちの9回分を見ることができたのです。かなりリサーチが行き届いており、なによりも実際のオーケストラ(早稲田大学交響楽団)をステージに乗せて、マエストロ西村がそれを指揮するというシーンがあるために、そこそこリアリティーがあって楽しめます。そして、このオーケストラを実際に指揮していたのが、なにを隠そう当時このオケの常任指揮者だった岩村力さんなのです。
 いつもは裏方のため、岩村さんが画面に姿を見せる事はないのですが、94111日放送分の「ブラームス」の回はちょっと趣向が変わっていて、岩村さんが行っている交響曲第番のリハーサルを見ながら「マエストロ」が解説をするという設定になっています。そこで、実際に動いてしゃべっている岩村さんを見ることが出来ますが、それを紙上で再現してみましょう。

第1楽章冒頭(1小節目〜9小節目)

(岩村:以下同じ)振ってるとやっぱりその、テンポは指揮者の役目かもしれないけど、その、オーケストラ全体がもっとこう、テンポ感を感じなきゃ、だめなのね。なんと言えば良いのかしら、ちょっと一番最初やってみよう。僕のテンポと、それからティンパニーの彼のテンポと、みんなのテンポと、それが最初っから一致しなきゃいけないね。もう一回やってみよう。

第1楽章冒頭もう1度

今止まったそのあといこう。8分の6の2拍目から。ピチカートもっとヴィブラート。
弦楽器やってみよう。ピチカートからもう1回。

9小節目〜29小節目

オーケイ。そのあとソロがいくつか出てきましたね。今止まったあとね。オーボエのソロ、それからフルートも少し、それからチェロにもこうつながって。あの歌い方ね、(歌う)もう少しエスプレッシーヴォな感じが良いですね。

29小節目〜36小節目

皆が思っているエスプレッシーヴォな感じ、感情表現、いろいろ持っていると思うけど、自分が思っているのの十倍ぐらい思って演奏して、やっとお客さんに一倍二倍届くかどうか、演奏ってのはそういうものだと思うから、どうぞ、その席に座ってるときに十倍、二十倍思うように心掛けてやってみよう。

第4楽章62小節目〜110小節目

基本的には今のくらいで良いでしょう。ファーストヴァイオリン、セカンドヴァイオリン今の最後のとこ、5小節目、「ヤカタカタカタカ」ありますね。セカンドヴァイオリンがどっちかというと発音が遅れてる。それから少しなまぬるい感じね。いつも一番手、二番手ってくる時には、やっぱり二番手がよりはっきりしないと、ちょっと埋もれてしまいますよね。それ、気をつけましょう。それから、チェロ、バスどうぞ、今のところ、もう1回。106。それおんなじリズムだからね。合わせましょう。

106小節目〜109小節目

はいどうもありがとう。オッケイ。ていう今の局面になるべく切り込んでいきたい。106のところはね。そうすると、どうだろう。いまさっきみんながやってくれた、こう、アッチェレランドっていうか、だんだん早くするのがありますね。それがちょっとなまぬるかったねえ。その、すごくクリアな絵を見ているような気分になったかどうか、それともちょっとこう、曖昧でね、ヴェールがかかってしまったかっていうのは、ちょっとはっきりしなかったね。もう1回いちばん最初、アレグロ・ノン・トロッポ。うねるような感じ、出してみよう。

62小節目〜77小節目

はいどうもありがとう。そう。今の出だしやっぱりファーストヴァイオリン、セカンドヴァイオリン、あんまり涼しい顔をして弾くのではない!いいかい、あんまりその、そりゃ僕は指揮者だから、一生懸命4、1、2、3、4ってあまりやりたくないんだけれどね、ここでは。やらなきゃいけないかもしれないけれども。みんなはみんなの中でカウントがあるでしょ?それをどうぞブラームスのカウントにして下さいよ。ベートーヴェンでもモーツァルトでもなく。カウントってのは(軽く)1、2、3ても数えられるし(重く)1、2、3とも数えられるし、テンポ変えてないよ、ね。テンポが同じなのにカウントの種類っていろいろのカウントがあるはずだよね。みんなブラームスのカウントをして。そんな涼しい顔をして弾くんではない!で、あのブラームス氏がだよ、駆け足でつまさき立って急いで歩くシーンをもし連想してごらん。すっごいおかしいよね。なんかねえ。(ぎこちない笑い)ここ、106のところさ、つまさき立って歩いたらもうおしまいね。やっぱりブラームス、あの体型のあのブラームスがどっしり歩く中で「タカタカタカタカ」をやらなきゃならない。言ってることわかりますか?アッチェレランドしてきた、あのテンポになった、じゃあブラームスのそのテンポ…

木管楽器352の三連符、1小節に12も音があってね、もう1小節だから24個か、音があるとこね。もっとこう気持ちをいれなきゃダメだよ、それは。もっと聞こえてくるはずだけどな。いいですか。ちょっとその辺やってみてくれるかな。木管楽器だけ。

352小節目〜354小節目

どうもありがとう。そう。それで、明らかにキャラクターがかわるよね、2小節と次の2小節。変わった感じがまだしないな。「タ〜ラ〜ラ」のところでもっと変わった感じがするはず。もう1度。

352小節目〜359小節目

はい、どうもありがとう。ねっ。そのクリヤーなメリハリって言うのかな、それをやってみましょうよ。

エンディング